定額給付金、なんてものがあったのを、覚えていらっしゃるだろうか?政策としてどうだったかというのは(まあ選挙結果を見ればわかりやすいが)ここでは置いておいて、その配布方法について、どうにも不可解だった。ちなみに、全部数ヶ月前の話しだ。
私は日本に比較的長期滞在していた関係上、2月1日時点で豊島区に住民登録していたので、そこで給付金を受け取る権利があった。しかし、豊島区のウェブサイトの定額給付金関係ページをいくら見ても、海外に引っ越した場合の対応は書かれていなかった。そこで、区民部 定額金担当課(+81-3-5992-7051)に電話をした次第。
電話の中身に入る前に、豊島区の対応をまとめておこう。区民には、簡易書留で(ここ、よく覚えておいていただきたい。簡易書留だ。)申請書が配布される。それを受け取ったら、窓口に赴いて申請するか、郵送で申請するそうだ。申請書の他に、「通帳の住所や口座番号が書いてあるページのコピー」と「身分証明書のコピー」を同封せよとのことだった。
豊島区外に2月1日以降に転居した場合も、豊島区に申請する権利がある。日本国内に転居した場合は、転居届に転居先住所が記載されているから、それで事務処理を行うことができたであろう。
問題は、日本国外に転居した場合だ。転居届には「ドイツ連邦共和国」などのように、国名のみを記載することになっている。転居先住所を記載する必要はない。従って、豊島区は、国外に転居した住民に対しては、申請書を郵送することができない。
そこで私は電話をしたわけで、当然ながら、現在の私の住所に国際書留郵便で送付するよう依頼した。私は在留届をこちらの日本大使館領事部に提出しているから、日本国政府の枠組みのなかで、私の住所を別途確認することも可能なので、その旨も告げた。これに対する豊島区の担当者の回答は「海外への郵送は対応しておりません」というものだった。いったいどういうことだろう?日本国内に郵便を送れるなら、日本国外にだって郵便を送れるはずではないか!この豊島区の担当者は封筒にアルファベットを書けないとか、そういう特殊な事情があったのだろうか?
仕方ない、代案。私の両親宛(要するに「実家宛」)に送ってもらうことにした。そこで私の実家住所を豊島区に告げた。「実家」になら送れるらしいのだ。しかし、いったいどうやって私の「実家」であることを確認するのだろう?仕方ないからこれで決着することにした。
しばらくして、実家には「普通郵便で」書類が届いたそうだ。いったい、区内に居住する区民に「簡易書留郵便で」送った(意味不明な)ポリシーはどこにいったのだろう?謎である。
さて、記入をして送り返す段になって、一つ問題があった。豊島区の指定は「通帳の口座番号と名前が書いてあるページのコピーを提出せよ」というもの。しかし、私が振り込んでもらおうとしていた口座は、(日本の銀行のものだが)そもそも通帳などない。仕方ないからキャッシュカードのコピーで代用した。結果的に問題なく受理されたようで、しばらくたって定額給付金が振り込まれていた。
以上が、私が定額給付金を受け取るまでにかかった流れだ。
さて、ここまできて、「定額給付金」にかんする「豊島区」の事務処理が、一貫性がないということにお気づきだろうか?
定額給付金は、受け取る「義務」のあるものではない。2月1日に日本国内に住民登録をされていた者が受け取る「権利」のあるものである。権利であるから放棄することもむろんできるわけで、辞退するだのなんのって総理大臣やらが言っていたのを憶えていらっしゃる方も多いだろう(辞退するとは、要するに権利の放棄だ)。
従って、各個人が権利を持っていることをあまねく周知する義務が豊島区にはあるだろうが、権利があることを各人に伝えるだけで十分なはずである。権利があると分かった人は、申請用紙をどこからか持ってきて(今どき、区役所や支所の窓口、駅頭、PDFでウェブにアップロードなどいろいろ組み合わせられる)、必要事項を記入して、権利を行使する旨を申請すればいいだろう。二重に申請する不正などには、住民基本台帳と身分証の組合わせの確認で対応できるはずだ。
定額給付金にかんして、簡易書留郵便でわざわざ周知徹底するのなら、たとえば選挙の前には「あなたには被選挙権があります。立候補できます。」とか、各個人に周知徹底するのだろうか?あるいは、「あなたには日照権があります」と、新たに建つ建物の近隣住民にあまねく周知徹底するのだろうか?いや、していないだろう。逆に、車検や、年金の納付のような義務に関しては、各個人に直接通知する必要があるだろうし、実際に通知しているだろう。(選挙に関しては「あなたは選挙人名簿に登録されています」という通知が各個人に必要な程度に複雑だから(特に引っ越した場合)、通知するのもやむを得ない気がするが、やはり権利行使という観点からはちょっとやりすぎにも思われる。)
まあ、年金とか選挙とか、個別の案件に関しては個別の事情もあるからこれ以上触れない。だが、いずれにしても、豊島区の定額給付金の給付方法には「義務」と「権利」に関する事務対応の混乱があるように思うのだ。仮に百歩譲って「権利があることの通知」を書留郵便であまねくすることをよしとしても、私のように受取時点で海外に居住している人に同様に対応できないのでは、やはりちぐはぐさが残る。区内の住民には「義務の通知」と同等の対応をして、海外に引っ越した住民にはあくまで権利として扱う事務対応では、一貫性がない、と言わざるを得ないだろう。
以上のようなことを、豊島区の定額給付金の給付課程を見て思ったのだ。ちなみに、政策としてはかなり馬鹿げていると思うので、日本よりも景気の悪いヨーロッパの景気回復に少しでも貢献するべく、ヨーロッパで使ってあげた。