前回の記事に書いたウィーンの大学での学生のサボタージュ・ストライキと、講義室の占拠は、2週間が経過した今日でも続いている。
この運動はドイツにも飛び火し、ミュンスター大学とハイデルベルク大学で学生による講義室占拠が起っている、とウィーンの日刊高級紙Der Standardが報じている。さらに、組織しているunsereuni.atによると、このほかにポツダム大学、ダルムシュタット工科大学、テュービンゲン大学、マールブルク大学、ミュンヘンの芸術大学でも講義室占拠が起っているようだ(Unsereunis.deも参照)。また、ベルリンでも同様の動きが起っているようだ(ORF)。キーワードは「連帯」。(ちょうど、ポーランドの民主化革命の時を連想させる言葉だ。)そして、今日(5日)夕方には、またウィーン中心部で1万人規模の学生デモが行われた、という具合だ(Der Standard)。
今回の動きは、元はといえば「学生(特に学部生)が増えているのに大学の資金が増えない」というあたりに問題があるようだ。オーストリアの大学は、大学進学者用の高校であるギムナジウムを修了し、マトゥラと呼ばれる大学入学資格を得れば、医学やスポーツ科学、音楽などの一部を除いて、基本的に誰でも在籍登録できる。学費は無料で、予算は国が拠出するものと、企業などからの研究資金でまかなわれる。研究の方は研究資金で回っているものの、国が拠出する方の運営資金が足りていない。学生一人あたりの教員数は極端に多い(ただし、学部レベルの講義では、日本の大学も同程度となる部分も多い)。そんな事情だから、大学間会議のチーフは1兆ユーロ資金不足を訴えることで学生側を擁護する格好の発言をし(Der Standard)、デモなどに参加する教員も出ている(Der Standard)。さらに労働組合連合なども運動を後押しする、という構図になっている。根本をたどれば、2002年の民族党と自由党の右派・極右連立政権時代の「大学改革」、ということになるらしい。
この学生の動き、オーストリアでは、Hahn教育相が事態の収拾に直接あたり、Feymann首相も首を突っ込むという形になってきた。学生側と教育相の直接の話し合いが、近々持たれる予定だ。しかし、教育相がどこまで本気なのかは未知数だ。教育相はEU委員になるために辞任する予定であり、やる気なんかなさそうだ。それに後任がこんな状況で決まるわけがないし、後任選びは「ババ抜き」だろう。この先、大学の予算が増やされたり、学部生に対する入学試験の実施などが導入される方向での検討が首相などが主導して始まるようであるが、こちらもまた未知数。もはやこの先の行方は不透明だ。
それにしても、デモや講義室占拠といった古典的なやり方と、FacebookやTwitter、それにライブ・ストリーミングによる占拠講義室の中継など、現代的なメディアを駆使して、見事に政治的主張を展開している。さらに、インターネットではDer Standard紙が時々刻々と情報をアップデートしている。各紙などでは、むろんトップニュース。
いったい、これに比べると、日本の大学生のパワーはどこに行っちゃったんだろう?みんなおとなしく横一列に「就職活動」を卒業の1年半前からしている姿と比べると、エネルギッシュさが根本的に違うような気がするのは、私だけだろうか?
連日のサボタージュ・ストライキに関して、学生や教育相の動きを伝えたり、論評を掲載したりしている、Der Standard紙の紙面。