ご存じの方も多いと思うが、私は出かけるのが大好きだ。家にじっとしているのはきわめて苦手なタイプらしい。しかし、出かけるのが大好きな原因をたどっていくと、ひとえに「地理」にたどり着くように思われる。「地理」が頭にインプットされていれば、そこに行ってみたいと思えてくるのは、おそらく自然なことだろう。なお、そこにたどり着くための手段は、私が専門とするのが交通であることだけ述べておけば、あとは説明の必要がないだろう。
さて、おそらく、最初に手にした、体系的に地理の情報がまとまった本は、『データブック 世界各国地理 (岩波ジュニア新書)』だろう。文字通り、世界各国のいろいろなデータと、国の概況が簡潔な文章で示されたデータブックだ。これを手にしたのは小学校高学年の頃だったか、中学校の頃だったか・・・・とかく、父親が買ってくれたことだけは憶えている。
あるいは、明らかに父親の影響ではあるけど、紀行作家である宮脇俊三の著作は、ほとんど全部読んだのではなかろうかと思う。代表的な海外ものの著作としては、『シベリア鉄道9400キロ (角川文庫 (6230))』や、『中国火車旅行 (角川文庫)』が挙げられるだろう。このあたりも、地理が頭の中にインプットされていく課程であったように思う。余談だけど、内田百聞はあまり好きじゃない。
このほかにもあれこれ読んだ。ぱっと思い出してみると、『極北シベリア (岩波新書)』(福田 正己著)は、大変に面白かった。あるいは、コリン・サブロンの『シベリアの旅』あたりが、この地域への興味を強くしてくれた。残念なことに、シベリアはまだ行ったことがない地域だ。おっと、忘れては行けないのは、ノーベル賞物理学者リチャード・ファインマンが悪戦苦闘したストーリーをまとめた、ラルフ・レイトンによる『Tuva or Bust!: Richard Feynman’s Last Journey』(日本語訳は『ファインマンさん最後の冒険 (岩波現代文庫)』として出ている)、あるいはメンヒェン=ヘルフェンによる『トゥバ紀行 (岩波文庫)』だって忘れちゃいけない。これらを読んで以来というもの、トゥバに興味があって仕方ない。むろん、まだ訪れることは実現していない。
地域が変われば、ブルース・チャトウィンの名著『パタゴニア』や、もう40年以上前の探検調査記である高木正孝『パタゴニア探検記 (1968年) (岩波新書)』あたりだろう。あるいは、ナショナル・ジオグラフィックから出ていた、『世界で最も乾いた土地―北部チリ、作家が辿る砂漠の記憶 (ナショナルジオグラフィック・ディレクションズ)』(アリエル・ドーフマン)などだろう。実際に旅行した前後にこういった本を読んだせいだろうか、南アメリカへの興味はかなりそそられて、今でも継続していると言ってもよい。それに、この手の旅行記というのが、地理のインプットにいろいろと刺激をしてくれたことは間違いないだろう。
余談だが、ブルース・チャトウィンの『パタゴニア』に、トレヴェリンという町が出てくる。ウェールズからの移民が植民したところだ。ここの野外博物館を訪れた時のこと、スペイン語しか喋らないおばあちゃんが、自分のおじいちゃんが入植した時代の話しをなんとか頑張って説明しようとしてくれていた。チャトウィンの本には、勇ましい馬であったマラカラにのって入植した男の「孫娘」が出てきた。なるほど、私に説明してくれたおばあちゃんと、チャトウィンの本に出てくる孫娘は、よく考えれば同一人物ではないか!
また、「ナショナル ジオグラフィック ディレクションズ」のシリーズには、秀逸な旅行記が多いと言える。早川書房から翻訳が出ていたが、最近は新しいのが出ていないようで、残念だ。
ウィーンに来てからといえば、ハプスブルク関連の書籍をたくさん読んだように思う。『ハプスブルク帝国を旅する (講談社現代新書)』(加賀美 雅弘)は19世紀末の鉄道旅行の体裁を取っていた。気取らず面白かったのは、もう既に絶版になってしまったようで残念だが、『ハプスブルクの旗のもとに (気球の本)』(池内紀)だろう。こういうのを読んでからウィーン拠点に中欧各地に出かけるだけで、見えてくる世界がぐっと広くなる、といってもいい。
テレビでは、たぶんTBSで長らく放送されていた「世界遺産」だろう。今は時間帯も変ってしまい、コンセプトも変ってしまったので、少々残念であるが、以前のものもDVDなどで手に入る。秘境のようなところを思いっきり空撮したりする、この番組は、他ではなかなか真似できないものだったように思う。
最近買ったものといえば、オーストリアの Freytag und Berndt 社から出ている世界地図だろう。欧州が中心になっているもの。部屋の壁に貼っているが、これを眺めていると、日本を中心に置いて右側半分の大半が太平洋である地図って、どこか無理をしているような気がしないでもない(別にユーロセントリズムではないが)。というか、日本列島はまさに「極東」 Far East だ。
Freytag の地図
旅行ガイドでは、断然「ロンリー・プラネット」を持って行く。時々ヘンテコなことが書いてあったりもするが、情報量と信頼性という点では今のところこれにかなうモノはなさそうだ。BBC International が2007年に株式の3/4を取得して依頼、カラーページがちまたの旅行ガイドっぽいものになってしまったのが残念だが、肝心の掲載されている情報に関しては変わりがない。英文であるのと、体裁に少し慣れる必要があるのが難点といえば難点だ。そう、そして最も重要なのは、地理に関する情報がしっかりと記載されていることだ。日本によくあるビジュアルさ全開のガイドではそうはいかないだろう。
なお、ヨーロッパの鉄道旅行に欠かせないのは、トーマスクック社の時刻表だ。ドイツ鉄道のように広範なオンライン時刻表を提供しているものもあるが、やはり紙の上でプランニングする楽しみにはかなわない。この時刻表について話しながら「距離と時間で2次元で表現されている」と表現していたのは、大学の私の指導教員の教授。この時刻表だって、交通の情報ではあるが、同時に地理情報の固まりとも言える。
とまれ、こういうのが重なったせいだと思うのだが、地理に関連する種々の情報が自然と集まってきて、それが出かける契機となり、出かけることで更に地理に関連する種々の情報が集まってきてインプットされていく。こういう好循環が、自分では起きているのではないかと、近頃は考えている。
最近、この手の話しをする機会がたくさんあった。せっかくだから、少しまとめてここに記しておこうかと思った次第だ。
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