JALにやっとこさで会社更生法

JALにやっとこさで会社更生法が適用される手はずが整ったようだ。ずいぶん前にいくつか書いたが、その後はメディアの動きを時々見ていたが、正直なところ「ずいぶん時間がかかったなあ」というのが印象だ。

ちょっと振り返れば、8月に「日本航空の経営改善のための有識者会議」なるものが設立されたが(国土交通省の報道発表資料を参照)、衆議院議員選挙の期間中であって、あまり表だった動きはなかった。その後、政権が変わって鳩山内閣となった後に、「JAL再生タスクフォース」なるものが「国土交通大臣直轄の顧問団として」再建計画を策定していたのだ。

さて、そのタスクフォースの設置に関する国土交通省の「報道発表資料」によると、「再生計画の策定手順とスケジュール」は

・  再生計画は、日本航空が自主再建を図るための計画であり、日本航空自らが策定し実行する。
・  日本航空は、再生計画策定のために、新たに、本タスクフォースが妥当と認めた外部専門家と、日本航空の社内スタッフを選定する。
・  日本航空は、本タスクフォースの直接の指導・助言のもとで、再生計画立案のための調査と策定作業を行う。
・  国土交通大臣は、上述の手順を経て提出された再生計画案について、日本政策投資銀行及び関係民間金融機関の意見聴取を行い、本タスクフォースによる妥当性評価報告を受けた上で、再生計画の妥当性の確認を行い、その実行について日本航空を指導・監督する。

となっている(上記の「報道発表資料」(国土交通省)から引用した)。ここでポイントなのは、一つ目は、有識者会議もタスクフォースも、国土交通省のもとにあった組織だということだ。もう一つ、再生計画を作成するのは、「本タスクフォースの直接の指導・助言のもとで」ではあるが、あくまでJALが主体的に行う、ということになっている。

さて、その後「企業再生支援機構」なるものにゆだねられた。「企業再生支援機構」にかんして、内閣府の企業再生支援機構担当室なるところの資料を読むと、主務大臣は「内閣総理大臣、総務大臣、財務大臣、経済産業大臣、厚生労働大臣(雇用関連部分)」である。ここに再建の手がゆだねられたということは、再建問題が、国土交通大臣の下にある問題から、より多くを巻き込んだ問題へとなっていった、という様子がうかがえる。その後の紆余曲折もあったが、結果的に、(まだ正式に公表されていないが、メディアの報道によれば)JALは会社更生法の適用の申請をすることがほぼ確定した、ということだ。

だが、JALが会社更生法を適用しないとどうにもならないことなど、最初から分かっていたのではないだろうか?日経新聞の1月9日付けオンライン版記事によると「最大5000億円の実質債務超過――。日本政策投資銀行は日航の資金繰り危機がささやかれた昨年8月時点で、すでにこう試算していた。」とある。とすると、どうしてこんなに時間がかかったのだろう?少し「遠い目」で見ていたので、その分析(?)を書いておく。

JALをいきなり倒産させることなど、多くの利害関係者が反対するだけにはとどまらず、多くの一般の人の目には「え?そんなこと、あり得るの?」と映るのではないだろうか?私の周りに話しを聞いても「え?あのJALが?」という日本人はかなり多い。多くの日本人には「JALは絶対につぶれない」「政府はJALをつぶすことは絶対にしないだろう」といった類の考えを持っていたと思われる。「JALのサービスは素晴らしい」という類の話も、世代を問わず聞く。だから、いきなり倒産させてしまうことには抵抗が多いだろう。新しい政権がいきなりそんなことをできるわけがない。もしそんなことをしていたら、マスコミは喜々として鳩山政権を批判するだろう。

とすると、会社更生法適用を念頭に、「JALはこれだけヤバイんですよ」というのを見せつける役割を担うものが必要だったと考えられる。そこで、国土交通省のもとの「タスクフォースの直接の指導・助言のもとで、再生計画立案のための調査と策定作業」をしたのではないだろうか?タスクフォースの作業中には、メガバンクが”反発”したりするなどもあったが、資産査定がなされて「2500億円の実質債務超過」(記事)に陥るなどしている姿がメディアを通じて広められた。その後はタスクフォースの報告書どおりに、内閣府などのもとにある企業再生支援機構が資産査定を再度行って、「8000億円超の実質債務超過」(前出の日経新聞の記事)という姿が明るみになってきた。「もう会社更生法しかないっしょ」という雰囲気がすっかり生まれているように見える。

JAL問題を長い目で見てみると、「国交省傘下の問題」から「政府全体の問題」となっていき(つまり問題がどんどん大きくなっていく)、さらに債務超過の程度もどんどん膨らんで行っている。そういう課程を経て、少しずつ問題の大きさをあぶり出しながら、「ヤバイ」ということを、一般の多くの人に刷り込んで行っているように見える。最後は、ほとんど予想されていた通りだと思うのだが、法的整理に落ち着くようである。

なんとも回りくどいやり方であるが、先に書いたように、一気に倒産させてしまえば政権のほうもぶっ倒れてしまうかもしれない。だから、少しずつ、政府の中でもいろいろな人がいろいろなことを言いながら、のらりくらりとしておいて、その間に世の中の多くの人を納得させつつ、もう会社更生法しかないよね、他の手はないね、というところまで追い込んでいったのではないだろうか。今思えば「もっと早く会社更生法を適用していれば」とも思うかもしれないが、JALにはよかったかもしれないが、発足当初の政権には大きなダメージになりえる。そして、もはや「政府がJALを倒産させることは絶対にない」と思っている人は、ほとんどいないはずだ。今JALが会社更生法の適用を申請しても、政権がぶっ飛ぶダメージはほとんどないだろう。

以上が、私が、少し遠い目でこの件を見ていて思ったこと(分析?)だ。

それにしても、そんな状況下ですら、関空では社員が誘導路で横断幕を掲げるほどに手が空いている(記事)んだから、暢気な会社である。筆者の友人の中国人(博士号を持っている人である)は「日本の空港に行くと、自動チェックイン機に社員が1人張り付いていて、自動化の意味がない」と言っていた。ちなみに、JALの損失の一因として燃油価格のデリバティブ取引を挙げている興味深い記事もある。

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