慌ただしく物事がすぎていったが、鳩山首相が「5月末」と期限を切っていた普天間移設問題は「辺野古」に戻り、首相退陣という結果になったことは、周知の通りだろう。ニュースではもっぱら新しい内閣と民主党の人事に注目が行っているようで、普天間移設問題などすっかり忘れ去られたかのようだ。(なんて日本のメディアは忘却が早いのだろう。)なんだか、「現行案で決まり決まり、もう終わったことだからいいじゃん、みんな忘れろよ」とメディアが密かに大合唱しているかのようだ。
既に各所で指摘されているが、公有水面の埋め立てには県知事の許可が必要だ。だが、その許可が出る見込みはゼロだ。今秋には沖縄県知事選挙があるが、現職の仲井真氏が当選しても、立候補が取りだたされている伊波宜野湾市長などが当選しても、許可を出す可能性はほぼゼロだろう。沖縄の世論がそれを許すとは考えにくい。とすると、この「辺野古」回帰の「日米合意」は、ほとんど実現不可能な案ということになる。むろん、共同声明を出した、日本側の防衛大臣や外務大臣、アメリカ側の国務長官や国防長官は、そのあたりの点を把握していないとは考えにくいから、それをわかりつつ、この実現不可能な「現行案」を日米合意として、さらに閣議決定までしたことになる。
ほとんど報道されていないが、米国では、在沖縄米海兵隊グアム移転費のうち政府原案の4億5200万ドルのうち、約70%が削減されて上院軍事委員会可決されたとのことだ(ソース、おおもと は共同通信)。2011会計年度(2010年10月?2011年9月)の予算で、グアムのアンダーソン空軍基地関連など三つの建設事業の予算計上を見送ったそうだ。さらに、グアムのインフラ不足が懸念されていることや、前提となる沖縄での埋め立て権限が降りないことなども念頭に、テニアンの活用検討も提案されているという。アメリカ側の予算の件はこれからも駆け引きが続くと思われるので確定的ではないが、上院とはいえ軍事委員会が予算を削った意味は大きいだろう。こちらでも「現行案」は実現に疑問符が付いている。
とすると、この普天間の返還・移設の問題は、先般の日米合意・閣議決定では建前上は辺野古を謳っているが、埋め立て許可権限と、米政府予算の在沖縄米海兵隊グアム移転費の面で、実現不可能性の方が相当に高いことがわかる。(沖縄世論は言うまでもないだろう。)
結果的に、前にも書いたような「のらりくらり」の道をたどって、首相の周りからのある種の「外圧」で辺野古案に「戻す」ことによって、逆に実現不可能性が浮かび上がることになった、とは果たして言い過ぎだろうか。直感的にも、現行案がほとんど不可能なことは、多くの人の目には見えているのではないだろうか。琉球新報の国会議員対象のアンケートでも(回答数は11%と多くはないが)、78人の回答者のうち35人は「国外に」と答えていて、沖縄県内にと答えているのは14人だけだが、これがそのことを象徴しているだろう。
琉球新報が社説で、 普天間問題はもともと「撤去」であり「移設」ではなかったことを指摘しているが、これがいわば「原点」だったはずだ。この社説が指摘しているように、「県 民の『返還』要求を、政府は米国との交渉で逆手に取られた。返還する代わりに「代替施設」を要求された。本来は嘉手納基地など既存施設・区域が代替施設と 想定された。候補地選定が揺れ動くうちに『名護市辺野古』にたどり着」いたのだった。だが、もはや実現可能性は皆無だ。
ところで、不可思議なことに、日本の大手マスコミが毎週のように行う「世論調査」では、内閣支持率は質問されていても、たとえば「普天間の移設先として どこが望ましいと思いますか」とか、「沖縄の海兵隊は日本と周辺地域の平和と安定に必要不可欠な存在だと思いますか」とか、「日本の防衛に米軍は必要だと 思いますか」とか、「辺野古現行案の実現可能性はどのくらいだと思いますか」とか「あなたは辺野古現行案に賛成しますか」とか、その手の質問はまずなかった。この手の質問を入れてはいけない暗黙の了解でもあるのだろうか?と勘ぐりたくなる。さらに、テニアン市長が日本を訪れても、グアム知事やテニアン市長が首相と面会するはずだったのを、首相補佐官が「門前払い」したと言われる件など(インターネット上ではいろいろ情報が出回っている。これなど。元はジャーナリストのツイッターらしい)、日本のマスコミはほとんど黙殺していた。何か意図でもあるのだろうか?
アメリカ側も一枚岩ではないだろう。日本との交渉窓口の一つとなる国防総省側(や国務省側)は、ある種の既得権を維持するためにも、さらに「思いや り予算」をもらうためにも、意地でも日本国内に代替施設が欲しいだろうから、一歩も譲らないだろう。だが、アメリカでも政権が変わっていて、ホワイトハウスや議会が意見を同じにしてい るとも限らない。その意味で、日本側では国務省側や国防総省側の「政府高官」の発言が「アメリカの意見」としてしばしば報道されるが、これは(意図してか 意図せざるかはおいておいて)、(ホワイトハウスや議会よりも)国防総省や国務省側の意見の代理人を日本の大手マスコミが務めていることになる。
前にも書いたが、「鳩山腹案」とはグアムとテニアン への 移転である、というのが私の見立てだ(最近は、これに海兵隊の再編・縮小が伴うのではないかと見ている)。もはや「幻の腹案」などと言う向きもあるが、「辺野古現行案」やその他の案の実現不可能性を 考えると、最も実現可能なのはグアム・テニアン移転だろうから、案としてはやはり最も理にかなっているだろう。フィリピンの例などのように、米軍に「お引き 取り願う」ことも、国際的には可能だ。また、「米軍がいないと有事に困る」という定説も怪しいところがあって、「米軍がいないほうが地域全体が安定する」とも考えられる。この考え方は、「東アジア共同体」構想とも、ロシアとの領土問題の進展とも、一貫性がある。
「最低でも県外、できれば国外」として沖縄世論や(メディアを介さない)日本国内の世論を焚きつけてから一転して「辺野古現行案」(とほぼ同じ物)に戻して、首相を辞任するのは、言葉のチョイスが悪い不謹慎な書き方だが、ある種の自爆である。だが、辺野古現行案を推す派をここに来て勢いづけたところで、その案が実現不可能で上手くいかないのも見えているから、この現行案推進派も、どこかの段階で行き詰まるだろう。こう考えると、第1段階の「世論焚きつけ」と「現行案推進派の勢いづけ」がひとまず終わり、次の第2段階で「現行案推進派(含む強力なマスコミの論調)を行き詰まらせる」というのがあるのではないだろうか。この第2段階はいわば「現行案推進派」を自爆させるようなものだ。(言葉のチョイスが悪くてすいません。)その時に残るのは「基地撤去」という議論の根幹たる原点と、必然的に発生する防衛や地域の安定をどうするかという安全保障の議論だろう。
まだまだ時間のかかりそうな件で予断を許さないし、まだまだ駆け引きなどもあるのだろうが、以上が今の段階で私が考えていることだ。他にも書きたいことはたくさんあるが、長くなってしまったので、ひとまずこのあたりにしておく。
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