数日前になるが、日本国内の空港の需要予測と実績の比較結果を国土交通省が発表して、マスコミ各社が報道していた。「国内空港:甘い需要予測、達成75分の8 紋別、石見13%… 成田も43%止まり」(毎日新聞)、「61空港、需要予測届かず 08年度、達成8空港のみ」(朝日新聞)、「空港需要 甘い見通し、9割予測割れ」(読売新聞関西版)と言った具合で、時事通信も「需要予測達成8空港のみ=国内旅客、9割は下回る?国交省」という見出しだ。どの記事も「9割が予測した値に達していない」だの「予測が甘い」だの、そんな調子である。国土交通省のウェブサイトをざっとブラウズしてみたが、報道発表などは出ていないようだ。
さて、「達成したのは8つの空港しかない」「9割は予測に届かなかった」という文章、なんかおかしくないだろうか?
この場合の「需要予測」は、利用者数の「見通し」「予測」であって、営業マンに課せられた売り上げノルマのような「目標値」ではない。だから「達成した」「予測に届かなかった」という議論そもそもが根本的に無意味だ。営業マンが売り上げや契約数の目標値を超えて喜々とするのは意味をなすが、需要の予測が予測値を超えて喜々とするのはこれと本質的に違う。プラスマイナス5%とか20%とか、ある程度の範囲に収まるべきものであろう。そういう意味で、たとえば熊本空港の需要予測値と実績値を比べると、実績値が予測値の1.6倍を超えているが、これも問題なのではないだろうか、ということになる。逆に大分空港は年間12万人(率にすると7%)ほど実績値が低いが、年間利用者180万人の予測、168万人の年間利用者数に対して12万人の差と言えば、一日5000人の予測に対して4600人ほどだったということである。さほど悪くはないではないか、という考え方だってできる。
さて、ちょっと計算してみたいのだが、年間の需要(万人)単位では実感がつかみにくいから、大分空港の例のように、1日単位に直してみよう。仮に一日平均500人使う空港があるとすると、365をかけて年間利用者数は18万2500人だ。ざっと20万人といったところ。一日平均800人の利用者がある空港の年間利用者数は29万2000人、ざっと30万人だ。最も利用者数の多い羽田空港は、1年に6319万人(実績値)だから、1日平均にすると17万3100人ということになる。桁が全然違うのが分かるだろう。この数字感覚は持っておいて頂きたい。
さて、毎日新聞の記事にあるデータをもとにして、計算し直してみた。どこの会社のデータを使ってもよいのだが、毎日新聞のデータを使ったのは、単にCSV形式にしてエクセルで読み込めるようにデータの変換がしやすかったからだ。
まずは、パーセンテージによる需要予測と実績値の比較をしてみよう。プラスマイナス5%の範囲内に収まるのは、拠点空港は新千歳、仙台、羽田、鹿児島の4空港。これに、地方管理空港やその他の空港では北大東、与那国、調布、天草が加わるが、この4つはどれも離島の空港か、離島路線に使われる本土側の空港で、予測された需要はこの4つの中で最大の与那国空港で年間8万人(一日あたり220人)だ。プラスマイナス20%の範囲内に収まるのは、上記に加えて、旭川、秋田、中部、広島、福岡、大分、鹿児島、那覇の各拠点空港と、神戸、出雲、岡山、宮古、県営名古屋の地方管理空港・その他の空港となる。30%範囲に収まるのは、これらに加えて、拠点空港では山口宇部が、地方管理空港・その他の空港では、青森、庄内、南紀白浜、徳島となる。
次に、実際の乗客数の需要予測と実績値の比較をしてみよう。年間だとわかりにくいから、1日あたりに直してある。(一日あたりに直すことの妥当性の議論はあるが、ここではおいておく。)拠点空港では1日あたりの誤差が2000人いないに収まっているものが半分ほど。地方管理空港やその他の空港だと、ざっと半分ほどが一日あたり500人の誤差の範囲には収まっている。5千人以上のずれと、大きくはずれているものもある。
さて、需要予測はどう行われているのだろうか?詳細は国交省の資料にあるのだが(資料)、結構専門的なので、ざっと簡単に言うと、基本的には、国内全体の(都市間)交通需要を予測して、地域別の発生量・集中量を推定して、地域間でどう分布するかを推定して、そのうち飛行機が分担する割合を推計している(いわゆる4段階推定法だ)。だから、国内全体の交通需要の予測そのものがずれてしまえば、空港への需要の予測もずれる。まあ、本題と関係が薄いし、これ以上ややこしい専門的な話しに立ち入るのはやめよう。
何が一番言いたかったかというと、需要の予測に「届く」だの「達成」するという新聞記事は、いろいろな議論をミスリードするだろうということだ。読者はこれらの記事を読んで「需要予測」は「達成」されるべきもの、ととらえてしまうのではないだろうか?時事通信の使っている「達成率」などという単語は特にミスリードしそうだ。「国内空港の半数が、予測値の半分にも届かない」という指摘は確かに当っているのだが、これに「達成率」という概念を併記したら、読み手は「需要予測は達成されるべきモノだ」と思いこんでしまう可能性が高いだろう。上の計算はざっとやっただけで粗っぽい面が多々あるが、こういうちょっとした計算をしてみると、「達成」ではなくて「予測と実績があっているかどうかはずれているか」を議論することができるだろう。マスコミにはそういう視点で記事を書いてもらいたいと思うのだが・・・・無理な話しなんだろうか?
それから、「過大な予測が空港の乱立につながった」と書くのは結構だと思うんだけど、「じゃあ何で過大な予測になったのか?」というところまで突っ込んでいる記事がないのが残念。ネタ的には政治家の口利きの方がセンセーショナルで面白いのかもしれないが、実際問題として(科学的な)需要予測の手法そのものに実は改良の余地がたくさんあるとか、そういう指摘があればいいのに、と思うのだが、これも日本のマスコミには無理難題なのだろうか?